Introduction|イントロダクション

―少し特別な、でも いつもと同じような一日が 始まる―

カメラマンの松島はある朝川辺で死んだ。見つけたのは大学生のイツキと悠一。
イツキは悠一のことが好きで、松島を見つけた日も、悠一がその日絵画教室でヌードデッサンをすることで頭がいっぱいだ。
絵画教室では、モデルのみそのが3年振りに元彼の孝生と再会していた。
松島の元彼女・日奈子は、松島の母が遺品の中から間違えて渡して来た女性物のハンカチに戸惑っていた。
日奈子の親友・淳子は友人の結婚式に参加するため上京するが、宿を失う。
行く宛て無く彷徨っていると、パジャマ姿で川原を徘徊する少年・真希と出会う。
看護師のサナエはその日の朝、高校の同級生だった松島の携帯に留守電を吹き込んだ。
家庭教師の亜梨沙は、密かに想っているカフェの店主・竜平にようやく名前を聞けた翌朝、
弟の真希が病院から消えたと連絡が入る。

6人の女性、9人の男性。誰かが誰かを想い、誰かを失い、誰かとすれ違って日々は過ぎて行く。



孤高のミュージシャン“黒木渚”のファーストアルバム
「標本箱」をモチーフに、期待の若手監督が作り上げた、
6人の女性をめぐる、もうひとつの「標本箱」

 まるで映画のような、舞台のような音楽と評され、独特の文学的歌詞で、女性の強さや心理を生々しく歌い上げるシンガーソングライター、黒木渚。ソロ始動後初の新作となるフルアルバム「標本箱」は、‘14年4月に発表されるやいなや、各方面で話題となり一躍認知を広めた。

 その「標本箱」をモチーフに、映画化に挑んだのは、新進気鋭の映画監督、鶴岡慧子。長編第一作『くじらのまち』がベルリン国際映画祭をはじめ、世界10ヶ国以上で上映され好評を博し、続く『過ぐる日のやまねこ』(2015)が第15回マラケシュ映画祭で審査員賞を受賞するなど今まさに活躍を期待される若手監督のひとり。

 鶴岡監督が「標本箱」の楽曲群から連想する形で脚本を書いた本作は、歌詞で描かれる女性の強さや揺れる想いを、6人の登場人物に託し、ささいな日常の中で生まれる様々な感情や出来事を点描のように描き、アルバムとは異なるもうひとつの、<うつろいの>標本箱として完成させた。本作の主演に抜擢されたのは、アイドルグループ「 ゆるめるモ!」を卒業したばかりの“もね”こと、櫻木百。劇中で多感な大学生を演じてみせた櫻木は、これがグループ卒業後、初の主演作となる。

 映画『うつろいの標本箱』を楽しませて頂きました。

 私が2014年に出したアルバム『標本箱』に収録されている曲が、作品の至るところに散りばめられていました。

 自分の創作作品が、私自身の範疇を超えて他分野のクリエイターの作品に繋がるというのはとても嬉しいことです。本当にありがとうございます。

 映像と音楽の掛け合わせで、皆様の心に素敵な解釈が産まれますように。  ―黒木渚